コンコンと扉を叩く音が聞こえる。 ミネアは割りかけた卵を籠に戻し、厨房を離れた。 子供達の食事の支度に忙しい時間だというのに、誰だろう。 玄関の扉を開くと懐かしい顔が覗き込んできた。 「ミネアおばさん!お久しぶりです!」 「あら!驚いたわ、どうしたの?」 くりくりとした瞳に藍の髪。 お邪魔しちゃいます。と言いながらぴょんと部屋に入ってくるはつらつとした行動は誰かを思い出させる。 その後ろからマーニャが顔を出す。 「やっほv」 「あら姉さんまで・・・」 「までって何よ!私が連れてきてあげたのよ。」 「変な場所へまで引きずりまわしてないでしょうね。」 「しないわよ!まだ未成年なんだから。」 逢った途端に相変わらずの掛け合いが始まるこの二人は本当に双子のようだと少年は思う。 笑いながらミネアに言った。 「僕、一人暮らしを始めようと思います。」 「まあ、どうして?」 「エンドールの大学に特待生として入学が許されました。 奨学金を使って勉強をできるので教会のお勤めで食べて行けると思います。」 「トルネコさんは反対なさらなかった?」 「反対されましたよ。金はいくらでも有る!とことん吸い尽くしていいんだぞ!って」 プッと笑いが洩れる。 「それはそうよ。天下の大商人トルネコ様よ。 あなたが奨学金を受けるなんて彼の矜持が許さないと思うわ。どうしてまた・・・」 「ポポロ兄さんに二人目の子供が産まれるんです。そして今年には新しく店も任される予定で・・・。」 「きっと色々大変だと思うし・・・。」 「またお店が増えるのね、相変わらずの繁盛振りで頼もしいわ。本当にあなたが気にする必要はないと思うけど。」 「へへ・・・本当はね、旅に出たいんです。」 「旅?」 「でも大学で学ぶ事もしたい。大学までお世話になりっぱなしで、卒業と同時に飛び出すのはさすがに気が引けるんで・・・」 「何所へ行くつもり?」 「何所でもです。自分の知らない世界をたくさん見てみたい。」 はぁ・・・と溜息をつくミネアを見て少年は続ける。 「ユーリルおじさんにも溜息つかれましたよ。やっぱりな・・って」 「ライアンなんて『まだエンドールにいたのか?』だってさ。」 その時の顔を思い出してるのだろうマーニャはコロコロと笑いながら続ける。 「トルネコさんに会って開口一番が『屋敷の壁はまだ無事か?』だもんね、可笑しいったら。」 「もう!僕は壁を壊したりしたことありませんよ。エンドール武術大会で細い柱を一本折っただけです。みなさん酷いなぁ・・・」 そんなに細い柱だったかしら・・・とミネアは回想する。 あの時は皆こぞって応援に行ったっけ・・・・。 初めての大会出場とあって誰もが気になっていたのだろう。 気付けばいつの間にか全員が集合していた。 そしてやはり期待通りの活躍を見せ、ジュニア部門で見事に優勝したのである。 彼の出自は明らかにされていない。 町の人は天下の大商人トルネコの遠縁の子供らしいとだけ聞いていた。 それから彼は連続優勝の末、見事殿堂入りを果たし大会出場の権利を失ってしまった。 ジュニア部門では強すぎるのも問題である。 あまりに揺ぎ無いその強さは他の幼い選手達の向上心を奪いかねない。 彼はそれ以来、試合には出ていない。 それ以上に勉学に目覚めたのだ。 誰もががっかりしたような、ほっとしたような複雑な心境であった。 「僕は早く一人立ちしたいんです。」 「またまたぁ・・・育ての親には寂しい言葉を吐くわねぇ。」 「姉さんは育ててないじゃない。」 「何言ってんの、皆で育てたようなもんじゃない。私だっておしめ変えたげたのよ〜。」 少年が顔を真っ赤にして言う。 「嫌だなぁ、マーニャねえさんは。いつも昔の話ばっかりして子供扱いする。」 「姉さん、また言葉を刷り込んで・・・なんで妹の私がおばさんで姉さんはねえさんなのよ!」 「あら初期教育の賜物よ。私だって育てたんだから。」 これは終わらないな・・・ 少年は笑いながら二人の義母の掛け合いを見ていた。 「昔、皆が僕に言ってくれたでしょ?」 「僕が大人になって一人立ちしたら、僕の両親と国の話をしてくれるって・・・。」 マーニャとミネアは、はっとした。 少年はあどけないながらも凛とした瞳で見上げてくる。 大学への入学は普通の生徒よりかなり早い。 飛び級をしているせいだ。 子供だ子供だと思っていたらいつの間にか立派な人間に成長していた。 もう十分だろう。 色々な事を自分なりに受け入れる事ができる年齢だ。 「じゃあ久しぶりに皆を集めて宴会しよっか!あんたの門出を祝って!」 「そうね。そこで積もる思い出話をしましょう。あの冒険の旅の事。あなたの国の人達の事。」 「あんたの両親やじいちゃん達のこともね。聞かせてあげるわ!」 「やった。」 少年は目を輝かせる。 「じゃ早速連絡網をまわすね〜。」 と言って表に出た瞬間姿を消した。 「早いな〜。」 「もう姉さんたら、全部自分で回るんだから連絡網なんて必要ないじゃない。」 呆れるように妹は言う。 少年の藍の髪をくしゃっと撫でた。 くすぐったそうに首をすぼめ、にっこりと笑う。 その笑顔は旅の間に何度も見せたおてんば姫の笑顔と瓜二つ。 思い出話をしましょう。 長い長い旅のお話。 出会った頃の事。 共に旅をする事で分かり合えたお互いの事。 彼らの口から聞いた幼い頃の思い出。 分かり合えず喧嘩した事や、それぞれの闘いの末に得た物。 広い広い世界の、そこかしこに彼らの通った跡がある。 大地にも、空にも、海にも、山にも、川にも・・・ そして闇に包まれた地下の世界、光溢れる空の上の世界。 人間と人間。 人間と魔物。 人間とエルフ。 人間と神。 人間とこの世にある全ての物。 この世の全てを解ることなんて誰にもできない。 できるのは、ただ知ることだけ・・・ それを伝えていくことだけ・・・ そして知ることに終わりなどないのだから きっとあなたは旅に出る。 自分という人間を知る為に・・・ そして彼らを知るために・・・ 「行ってらっしゃい。」 それはあなたを愛する皆の声。 終 |
むに 2005/5/8
(Sun.) ムカデに噛まれる直前の夢。 詳しい内容は、今となっては記憶が霞んであやふやな部分が多い。 大まかな流れを言うと・・・ なんかサントハイムが深刻な情勢に巻き込まれてるらしい。 「国の捨て駒になってくれ」とアリーナ姫直々に言われたクリフトが剣を姫に返上し、 丸腰で森の中、敵と相対するのだけど 何故か魔法は全く使わず、敵に向かって両手を広げて 矢を一身に受けて絶命。(訳解らん) 映画「タイムマシーン」の様に月日が流れるシーンがあって。 いつの間にか神官服が風化していくのだけど、姫から受け取ったロザリオだけがいつまでも輝いてる。 っちゅうなんか浸った内容でありました。 でも命令した時の姫の凛とした表情はなかなか涙を誘う感じだったような。 起きてからの無意識な脚色もあるかもしれないが、随分真剣な夢だった。 |